東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1609号 判決
第一信託銀行
訴外東京電線株式会社と被控訴人第一信託銀行株式会社との間に、本件定期預金について、被控訴銀行主張のような担保権設定契約が締結され、被控訴銀行が右契約に基いて昭和二十六年十一月二日訴外会社のために金額三百万円の約束手形を割引いた事実、訴外会社が同年十二月三日手形の不渡を出して銀行取引停止の処分を受けた事実、被控訴銀行が同月十九日割引手形の振出人である株式会社芝金商店から右手形金の内入金二百二十九万六千二百五十六円の支払を受け、手形金額三百万円との差額七十万三千七百四十四円につき本件定期預金元金に対し担保権を実行してこれを取り立てた事実、同月二十一日右定期預金元金の内金五十万円が訴外会社の責任に属する他の手形金債務の決済に充当された事実は当事者間に争がない。
そこで右担保権実行の当否について考察するのに、証拠を綜合すれば次の事実が存在したことが認められる。すなわち、訴外会社は昭和二十六年十二月三日手形の不渡を出し、銀行取引の停止処分を受けたので、被控訴銀行は訴外会社のため割引いた前記三百万円の手形の支払について不安を感じ、同月十三日頃担当行員を訴外会社に赴かせて事情を調査したところ、同会社において先に芝金商店に対し納入を約した金六百六十万円程度の受注商品の前渡代金の支払のため、同手形を含めて合計金六百六十万円の約束手形を芝金商店から振出を受けたものであるが、訴外会社は僅かに金二百万円程度の商品を納入したに止まり、また当時訴外会社は多大の債務を負担し、事業の経営は困難となり、右手形の決済も不可能であることが判明するに至つた。被控訴銀行はその担当行員を更に芝金商店にも赴かせて事情を調査させたところ、同社長もこれを認め、前記事情が真相であることを一層確めるに至り、なお同社長は右行員に対し、注文品引渡の可能性がない以上、右手形が満期に呈示されても支払に応ずることができない旨言明した。ここにおいて被控訴銀行は屡々右担当行員をして訴外会社並に芝金商店と交渉を続けさせたところ、訴外会社には多数の債権者がつめかけて、社印、代表者の印等は債権者等が保管し、訴外会社の社長は所在を晦ましている有様であつたため、同月十五日頃常務取締役河野清造から担保権の実行をなすことにつき承諾を受け、他方芝金商店に交渉の結果、同月十九日右手形金の内元金二百二十九万六千二百五十六円の支払を受け得たので、その不足額七十万三千七百四十四円について、同日担保権を実行し、本件定期預金元金中から同金額を差引いてその弁済に充当したことが認められる。
しかして本件担保契約においては、被担保債権について債務不履行の場合に始めて担保権の実行をなし得る旨約定されている以上、本件においては、前記三百万円の手形が満期に呈示されて支払拒絶となつた場合に始めて担保権の実行をなし得るのはいうまでもないが、前記認定のような事実関係の下においては、満期前と雖も、前記手形が満期に支払われないことは既に明白に予期されていたものであり、その債務不履行の蓋然性は既に明白であつたものと認められるのみならず、これが担保権の実行について訴外会社において承諾を与えた以上、本件担保権の実行は有効であると考えざるを得ない。
尤も、芝金商店は当時相当の業績を挙げて居り、その資産を以てすれば右三百万円の手形支払は必ずしも困難ではなかつたことが認められるが、前段認定のとおり、振出人である芝金商店は手形金支払の意思のないことを言明している以上、手形金支払の資力があつても、手形の支払拒絶を招く虞は十分であり、殊に証拠によれば、芝金商店は年末に際し現金の調達に余裕がなく、最大の限度に辛うじて前記二百二十九万六千二百五十六円の支払をなし得たに留まることが認められるので、右担保権の実行は、被控訴銀行として巳むを得なかつた相当の処置と認めざるを得ない。
次に、控訴人は、被控訴銀行において芝金商店に対して手形を引き渡した後は、最早残額七十万余円については手形上の権利を行使できないと主張するが、前段認定のとおり被控訴銀行は手形を所持する間に、訴外会社と交渉の末、同手形債権のため担保権実行の承諾を得ていたものであるから、同承諾に基いてなされた担保権の実行は相当と考えられるのみならず、証拠によれば、訴外会社と芝金商店との間には、訴外会社は芝金商店から商品前渡代金として右手形を含めて合計六百六十万円の手形を受け取り、他の一通の手形は株式会社協和銀行から割引を受け、訴外会社は受注商品のうち二百万円相当の分だけは芝金商店へ納入したが、その余は納入せず、仮に訴外会社が右手形を被控訴銀行から引渡を受けても、芝金商店は訴外会社から受け取つた二百万円相当の商品分としては、既に右金額以上の金二百二十九万六千二百五十六円の金員を右三百万円の手形に対して振出人として被控訴銀行に支払つた以上、訴外会社と芝金商店との内部関係においては、訴外会社は残額七十万余円については芝金商店から償還を求めることができないものであることが認められるから、被控訴銀行が誤つて右三百万円の手形を芝金商店に交付したとしても、訴外会社は何等の損害を受けるものではない。従つて、被控訴銀行が右三百万円の手形を芝金商店に交付した後、本件担保権の実行をしたとしても、訴外会社はこれによつて特別の不利益を受けたものとは考えられない。
してみると被控訴銀行に対し、訴外会社よりの債権譲渡を理由に金七十一万九千円の支払を求める控訴人の本訴請求はいるわけであるから、この点は理論的に矛盾していることになる。したがつてこのことから逆に、有配株式についてだけ、しかも負債利子額の同額までについて、他と唆別することに疑問を抱かせるのである。更に、この算式で考えた場合に、法人の支払利子は結局損金を否定されることになるわけであるから、利息受入者が原則的に法人であることにかんがみ個人に帰属すべき所得(負債利子額)を法人に転移し、適用税率を異にする結果を生ずるは勿論、個人配当所得の控除分について二重課税を生ずるのではないかと考える。
結局、現行税制は、会計学的に単純に衡平を期さんとしたものであると考えても、他の面において、矛盾を抱いていることを否定し得ない。